2型糖尿病を合併する慢性腎臓病患者さんのより良いアウトカムを目指して
糖尿病診療の質を高める医療連携とは
―順天堂大学における早期紹介・循環連携・教育入院の実践
綿田先生 糖尿病診療における連携により、専門医とかかりつけ医がそれぞれの強みを生かすことが可能となり、診療の質をさらに高めることにつながります。専門医はどの段階で関わるのが望ましいのか、教育入院は患者さんに何をもたらすのか、そして地域へ戻した後の診療をどう充実させていくのか――。こうした課題に対して、私たちが現場で培ってきた実践知をご紹介します。本稿が、日々の糖尿病診療をあらためて見つめ直す一助となれば幸いです。
2026年4月16日、TKP品川カンファレンスセンターにて取材した内容を基に記事化した。
綿田 裕孝 先生
順天堂大学大学院医学研究科
代謝内分泌内科学 教授
三田 智也 先生
順天堂大学大学院医学研究科
代謝内分泌内科学 准教授
中島 健一 先生
大森駅前なかじま内科・糖尿病クリニック 院長
専門医とかかりつけ医、そして
地域の専門クリニックはどうつながるべきか
三田先生 順天堂大学では2025 年実績として、年間の初診患者約800人のうち、およそ85%がかかりつけの先生方からのご紹介です。ご紹介いただいた患者さんについては、病態評価、合併症評価を行うとともに、生活習慣の改善など、療養支援や薬物療法の調整を行ったうえで、状態が落ち着けば紹介元の先生方へお戻しするようにしています。糖尿病は長く付き合っていく疾患ですので、専門医が必要なタイミングで集中的に介入し、その後は、かかりつけの先生方で継続的にご診療いただき、必要時、専門医にご紹介いただく、そういった循環型の連携を築くことが理想的だと考えています。
中島先生 糖尿病専門クリニックの立場からすると、地域医療における糖尿病診療はまだ発展途上の部分もあると感じています。健診をきっかけに受診されるケースが多く、糖尿病非専門の先生方から困難症例の紹介を受けることもありますが、糖尿病専門クリニックの機能を地域で十分に発揮できているとは、まだ言い切れません。一方で、各医療圏には消化器、循環器、眼科、歯科など各分野の専門クリニックがあり、入院以外の外来診療においては大学病院や基幹病院に過度に依存せずとも、医師会などを軸とした地域内での専門的な診療体制を構築できることは大きな強みです。糖尿病専門クリニックが血糖管理を担い、他の専門クリニックがそれぞれの高度な専門性を生かす。とりわけ都市型の医療圏では、そうした横のつながりを活性化させることが医療資源の有効活用につながると考えています。
連携の差は、
情報共有と"顔の見える関係"で決まる
三田先生 糖尿病診療では、血糖管理のみならず、血圧、脂質、生活習慣の改善、さらに合併症の予防・管理まで包括的な診療が求められます。順天堂大学では日本糖尿病協会のJADEC連携手帳を活用し、必要に応じて診療情報提供書でも情報を補っています。紹介時に評価を行い、治療方針を伝え、逆紹介の際にきちんと引き継ぐ。そうした情報共有の積み重ねがあってこそ、連携は機能します。紹介を受けたら返書を書く。検査や診断が進んだ段階でもう一度知らせる。落ち着いたらしっかり返す。そうした丁寧な対応の積み重ねが、確かな信頼につながると思っています。
中島先生 かかりつけの先生方と信頼関係を構築するうえで重要なのは、やはり「顔の見える関係」だと思っています。医師会などの会合を通じてコミュニケーションを深め、互いの専門性や人柄を把握できるからこそ、「この患者さんはこの先生にお願いしたい」と真に安心してご紹介できる体制が確立されるものと考えます。糖尿病をテーマとした講演会では、主に糖尿病専門医や内科系の先生方が参加されますが、地域医療を活性化させるうえで求められるのは、より多くの専門領域間の連携です。その接点として、医師会の存在は非常に大きいと感じています。大学病院の地域医療連携の会も紹介のきっかけになります。講演後の質疑や意見交換を通じて、互いの役割や得意分野が見えてくる。紹介状だけでは築けない信頼が、そうした場で育まれていくのだと思います。
紹介のタイミングが、
その後の糖尿病診療を左右する
三田先生 かかりつけの先生方からのご紹介は、血糖値がかなり高くなってから、あるいはインスリン導入や合併症対応が必要になってからというケースも少なくありませんが、理想を言えば、診断早期に一度ご紹介いただきたいと考えています。特に、生活習慣の是正という面で、早い段階で正しい知識を伝え、改善を支援することが、高い効果と継続につながると考えています。また、薬物療法や生活習慣への介入を行っても、HbA1c値が目標に届かない場合には、積極的に専門医への紹介を考えていただきたいところです。低血糖を繰り返す場合や妊娠糖尿病、感染症で血糖が不安定な場合も、専門医が関わるべき重要な局面と考えます。
中島先生 糖尿病を専門とされない先生方もさまざまなバックグラウンドをお持ちだと思いますので、糖尿病や内分泌疾患に関して迷われたり困られたりした際には、ご遠慮なくご紹介いただきたいと考えています。糖尿病に関しては、地域の糖尿病専門クリニックに任せ、ご紹介していただいた先生方が専門にされている疾患に関しては、引き続きフォローアップをお願いしたいと考えております。例えば、心臓は循環器の先生が、腎臓は腎臓内科の先生が、睡眠時無呼吸症候群は耳鼻科の先生などがそれぞれの専門性を発揮され、そして糖尿病は早期から当院で並行して介入していく。こうした緊密な共同管理を実践することが、一つのクリニックが中途半端にすべての疾患を抱え込むよりも、心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な心血管イベントの発症リスクを最小限に抑え、患者にとって最善の利益をもたらすと考えております。
三田先生 糖尿病は長く付き合う慢性疾患です。専門医で薬物療法の調整や療養支援を行った後は、ご紹介元のかかりつけの先生方へお戻しすることが大切です。フォローの際には、血糖マーカーだけでなく、食事や生活リズムの変化にも目を配っていただき、生活習慣の乱れや体重増加といった再悪化の兆候があれば是正し、必要に応じて再び専門医へご相談いただく。そうした循環連携を信頼関係のもとで行っていくことが、慢性疾患診療にふさわしい形だと思います。
多科・多職種連携、院内ジム・運動トレーナー
―順天堂教育入院の強み
三田先生 かかりつけの先生方からご紹介いただいた患者さんのうち、糖尿病と診断されたばかりの方や、病態・合併症の詳細な評価、治療方針の見直し、インスリン導入や治療薬の調整、個別の食事・運動療法を含めた療養指導など、専門的かつ包括的な評価・支援・治療を要する場合には、1週間(毎週金曜日入院・翌週木曜日退院)の糖尿病教育入院プログラムをご案内しております。医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、療養指導士ら多職種が、病態・合併症評価、薬物療法の調整、疾患・治療の啓発に加え、食習慣や生活習慣の是正、自己管理の促進などを支援します。また、院内ジムを活用し、運動トレーナーが患者さん一人ひとりに合った運動習慣を促しています(写真)。必要に応じて、他科と連携し、合併症の評価を行っています。こうした多職種・多科連携による集中的な介入を短期間で一体的に行えることが、教育入院の大きなメリットだと考えています。
中島先生 私のクリニックでも、糖尿病療養指導士資格を持つ看護師や、インスリンポンプ管理経験のある看護師、常勤の管理栄養士が在籍しており、大学病院に近いレベルの外来診療体制を整えています。ただ、大学病院との大きな違いは、やはり入院機能にあると思います。外来だけでは十分に行えない体系的な支援を、教育入院によって短期間で集中的に実施できる点は大きな価値があります。特に食事療法や運動療法は、正しい知識がなければ適切な実践につながりません。教育入院のなかで、患者さんがそれらを体系的に学び、食事も運動も実際に体験することで、ご自身の生活に落とし込めることは非常に重要ですし、こうした介入は早期であるほど修正しやすいのではないかと考えています。また、これらの食事・運動療法で不十分だと判断された場合は薬物療法が行われますが、入院下でしか行えない精密検査などによって、より患者さんの病態に合った薬物療法の選択・組み合わせを提案することができます。
(三田智也先生ご提供)
