糖尿病とCKDのリアルを知る Know Renal & Diabetes Essentials
Vol.3
慢性腎臓病患者の心血管疾患リスクに対する治療介入戦略を考える
〜リアルワールド観察研究が示すeGFRと蛋白尿による評価の有用性〜
慢性腎臓病(CKD)は心血管疾患(CVD)のリスクであるだけでなく、『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』において心不全ステージAのリスクとされたことにより1)、心不全の予防においても重要な病態と位置付けられました。高齢化の進む日本ではCKD患者数が約2千万人に達し、“高齢CKD”への対応が急務となっています。そこで今回、85歳以上を含む183万人を対象としたリアルワールド観察研究2)で推算糸球体濾過量(eGFR)および蛋白尿とCVDリスクとの有意な関連を報告した慶應義塾大学の林香先生と畔上達彦先生に、研究結果を踏まえて高齢のCKD患者における心不全の予防の重要性について話し合っていただきました。eGFRと蛋白尿に基づくCVDリスク予測および早期介入の意義と重要性を明らかにし、実臨床に役立つポイントを示します。
慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科
専任講師
畔上 達彦 先生(写真:左)
慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科 教授
林 香 先生(写真:右)
高齢者の3人に1人がCKDの時代
心不全リスクをどう抑えるか
林先生 近年CKDの患者さんが増加し、高齢者では3人に1人がCKDであるとの報告もあります3)。臨床での実感もその通りで、特に高齢のCKD患者さんでは複数の疾患を併存することが多く、その中でもCKDの治療をどう最適化していくかが大きな課題だと感じています。
高齢のCKD患者さんでは加齢に伴いさまざまなリスクが顕在化します。そのうち生命予後に大きく影響するリスクとして、何が重要だと思われますか。
畔上先生 CKDや糖尿病関連腎臓病(DKD)では、腎臓だけが悪くなるわけではありません。むしろCVDリスクが高まる方が多く、経過のどこかで心血管イベントや脳卒中を起こす方も少なくありません。一般的な加齢による変化を超えて合併症が生じやすいことが、高齢のCKDおよびDKDの患者さんの特徴だと考えています。
林先生 ご指摘の通りだと思います。最近広まっている心血管・腎・代謝(CKM)症候群という概念に基づくと、心臓・腎臓・代謝という相互関係の中で、高齢の方は特に悪循環に陥りやすいと感じます。CVDリスクや代謝リスクは加齢とともに上昇し、心不全も今や「心不全パンデミック」と呼ばれる状況です。このような状況下で2023年、米国心臓協会(AHA)は心不全発症において腎機能障害が重要な因子であることを提唱し4)、日本の『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』でも同様にCKDは心不全の危険因子であると明記されました1)。この点について、どのように評価されていますか。
畔上先生 CKDが心不全の危険因子であることは、現場の医師は既に実感していたと思いますが、あらためてガイドラインにより位置付けられた意義は大きいと考えます。高齢でCKDであると心不全のリスクは確実に上がりますから、CKDと心不全、さらにCKMの視点も含めて包括的に管理していく必要があると考えています。
eGFRと蛋白尿でCVDリスク評価の精度を上げる
―85歳以上を含む183万人対象の観察研究から
林先生 私たちは高齢者を対象に、eGFRと蛋白尿がCVDリスクとどのように関連し、さらに加齢がどのように影響するのかを、健診とレセプトデータベースから抽出した約183万人を対象に検討しました2)。概要は表1の通りです。
畔上先生、まずは本研究の背景を簡潔にご説明ください。
畔上 達彦 先生
畔上先生 過去の研究では75歳までを対象とした報告が多く、それ以上の年代におけるデータは限られていたので、今回は85歳以上に拡張して解析しました。eGFRは加齢とともに低下しますので、高齢者のeGFRがどの程度、実際の心血管イベントと関連するかを明らかにしたかったのです。試験紙法による尿蛋白定性結果についても、実臨床で入手しやすい定性試験の結果が、心血管イベントリスクにどのように反映されるのかを明らかにしたいと思いました。これらの背景を踏まえて、eGFRおよび蛋白尿とCVDとの関連を年齢層別に評価しました。
林先生 日本は高齢者の割合が高いことから、85歳以上を含む実臨床に近い対象群で検討した点は、臨床上有用な示唆を得られる設計だと考えます。eGFRは加齢とともに低下しますので、その情報をCVDリスク評価にどのように反映するかは、実地診療における重要な論点です。
次に、結果について臨床的に有用だと考えられる点をまとめてください。
畔上先生 1つはeGFRです。年齢ごとの分布を見ると、40歳未満ではeGFR<60mL/分/1.73m2の方はほとんどいませんが、加齢とともに割合は増加し、85歳以上では約6割が該当しました(表2)。健診受診者を含む一般住民の、少なくとも比較的元気な層を含んだ上での6割という結果には驚きました。eGFRと心血管イベントの関連を見ると、若年層ほど相対リスクの立ち上がりが急峻であり、高齢層では加齢に伴う生理的機能の低下も加わって傾きは緩やかになります。それでも85歳以上においてもeGFR<30mL/分/1.73m2は明確にCVDリスク上昇と関連していました。他の年齢層でも、eGFR低下そのものがCVDリスクと結び付くことは一貫しているといえます。
尿蛋白については年齢が上がるにつれて陽性が増え、CVDリスク上昇に関与していました。今回指標としたのは+以上の蛋白尿陽性でしたが、既に±の段階からCVDリスクが有意に上昇していました。どの年齢層でも、±から+、++と尿蛋白が増加するに従いCVDリスクが上がる傾向は一貫していました(図)。eGFRと蛋白尿はそれぞれ独立したCVDのリスク因子ですので、組み合わせることでより精度の高い評価が可能だと考えています。
林先生 今回の研究で新たに明らかになった点を踏まえて、今後の診療で注意すべきポイントを教えてください。
畔上先生 第一にeGFRの低下は年齢に依存せずCVDリスクとなる点です。高齢者ではどこに閾値を置くべきかを決めるのは難しいのですが、eGFR<30mL/分/1.73m2であれば、超高齢であっても注意すべき高リスクの患者さんと認識すべきだと思います。第二に健診での尿蛋白の±は見過ごされやすい所見ですが、±の段階でもCVDリスク増加と関連するため、軽視せずに対応する必要があります。第三に、高血圧や糖尿病など他のリスクが重なるケースでは、より早期の治療介入を検討していただきたいと思います。
林先生 eGFRと蛋白尿がそれぞれ独立のリスク指標である点、そして両者を組み合わせることで精度高くCVDリスクを評価できる点を再確認できました。また、糖尿病患者さんのみの保険適用という制限はありますが、尿中アルブミンも組み合わせることで、よりリスク評価の精度を上げることができると考えられます。これらを踏まえ、なるべく早く治療介入することが重要だと考えます。
心不全予防の鍵は
尿蛋白を指標とした早期介入
林先生 それではCVDリスクに対する治療介入戦略について考えたいと思います。最初にCVDの一次予防の重要性について、先生のお考えをお聞かせください。
畔上先生 一次予防の重要性は明らかです。CKD患者さんはリスクの高い集団ですので、一般集団と比べて一次予防の優先度が高くなります。より早いタイミング、すなわち早期にリスクを評価し、適切な介入を開始することが重要だと考えます。
林先生 早期介入の重要性に私も同意します。一次予防は医療経済的観点でも、患者さんの生活の質の観点でもメリットが大きいと感じます。一度、心筋梗塞、脳卒中や心不全を発症すると、再発や増悪のリスクが上昇し、それを繰り返すことでリスクがますます上昇するという悪循環に陥ってしまいます。したがって、初発のイベントを起こさないように介入することが極めて重要です。
では、CKD患者さんへの治療介入のタイミングを、蛋白尿やeGFRの観点からどう考えるか、先生のご意見をお聞かせください。
畔上先生 治療的介入には、血圧管理や腎、CVDイベント抑制のエビデンスを有するアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)などのレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬、SGLT2阻害薬による治療などがあります。介入のタイミングと手順を考える際には、CVDイベントの既往がある方や、eGFRが一定以下に低下している、もしくは低下トレンドが明確な方、蛋白尿を認める方では、腎機能の低下やCVD発症を抑制する目的で、より早期の介入が必要だと感じています。
林先生 今挙げていただいた点 は、Kidney Disease Improving Global Outcomes(KDIGO)の CKDガイドライン2024でも明文化されています5) 。例えばSGLT2 阻害薬の使用について、①2型糖尿病合併CKDでeGFR≧20mL/ 分/1.73m2、②CKDで尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR) ≧200mg/g、または心不全合併でeGFR≧20mL/分/ 1.73m2の場合は強く推奨され、③UACR<200mg/gの症例ではeGFR 20~45mL/分/1.73m2であれば投与を提案、とされています。したがって、蛋白尿の存在やeGFR低下、あるいは糖尿病に伴う腎障害が認められる状況で は、早期介入の検討が妥当だと理解してよいと思います。
次に、腎障害マーカーとしての尿蛋白測定のさらなる普及について、簡便さやコスト、患者指導への応用などの観点から、先生のお考えをお願いします。
畔上先生 臨床フローとしては、まず尿蛋白の測定と捕捉が最も重要です。蛋白尿は試験紙法による定性検査で簡単に見つけられますので、CVDの予防の観点からも臨床的意義が大きいと考えています。尿検査を受けていない方には、まずは定性検査を促すことが重要です。また、定性検査では見落とされがちな微量アルブミン尿については、糖尿病患者さんでは3カ月に1回の測定が保険で可能ですので、定期的に評価するのがよいと感じています。
林 香 先生
林先生 尿検査は、将来のCVDリスク評価として、また投与した薬剤の効果判定の手段としても重要です。患者さんへの説明にも活用できますので、医療現場での普及をさらに進めていきたいと思います。
腎・心にエビデンスを有する薬剤で
治療継続を目指す
林先生 『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』では、 心不全ステージA、すなわち心不全リスクのある患者さんの危険因子の1つとしてCKDが加えられたことで、心不全発症予防の新たな治療戦略が求められています。畔上先生のお考えはいかがですか。
畔上先生 これまでにも申し上げた通りですが、CKDは心不全との関連が深いことを実感しています。特に心不全と蛋白尿との関連性が見いだされたことから、蛋白尿を指標としてしっかり介入することが重要だと考えています。心と腎に対する作用がオーバーラップする薬剤は幾つかあり、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、糖尿病合併例では非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)が挙げられます。これらの薬剤を用いて、腎・心の両面を視野に入れながら治療することが重要だと考えます。
林先生 低腎機能の患者さんにおけるカリウム管理や高齢に伴う薬剤選択など、長期予後を見据えた治療継続についてはどのようにお考えですか。
畔上先生 血中カリウム値が多少上がったとしても、ただちにRAS阻害薬を中止するのではなく、まず食事内容や併用薬の見直しの他、カリウム吸着薬の併用などで可能な限り継続することを基本方針とします。MRAやSGLT2阻害薬でも考え方は同様で、腎・心のアウトカムを見据え、治療環境を整えて継続することが重要だと考えます。
林先生 私も同じ意見です。薬剤の組み合わせの工夫でも治療の継続性を高めることが可能だと考えています。
畔上先生 腎臓病は慢性で可逆性が乏しい疾患です。糸球体硬化や合併症が進行する前に治療を開始し、残腎機能を維持することが重要です。MRAなど使用可能な薬剤は適切かつより早いタイミングで導入することが大切だと思います。
林先生 CKDが進行すると心腎関連合併症が増え、心不全も合併しやすくなります。早期介入が腎障害の進行を抑制し、悪循環を断ち切る鍵だと考えます。
「まず尿検査」
―かかりつけ医から始まる一次予防
林先生 最後に、かかりつけ医の先生方と患者さんへのメッセージをお願いします。
畔上先生 かかりつけ医の先生方は高血圧・糖尿病・脂質異常症などCKDリスクを伴う患者さんを多数診られています。CKDを診断する基本はeGFRと尿検査です。リスクの高い患者さんを数多く診るからこそ、腎・心のアウトカムを見据えた確実なリスク評価が必要です。
患者さんには、目先の数値を下げることが治療の目的ではなく、その先にある腎障害や心血管イベントを起こさないことが目標であること、そのためにも尿検査が必要であることを説明しています。
林先生 尿蛋白などの尿所見が先行し、その後にeGFRが低下する方も多くいらっしゃいます。患者さんには、蛋白尿は腎臓からの早期のヘルプサインであるとお伝えしています。地域では、「まず尿検査」を広げる取り組みが始まっています。この流れを患者さんに届けるためにも、かかりつけ医の先生方の役割が極めて重要だと感じています。
文献
1)
日本循環器学会/日本心不全学会『2025年改訂版 心不全診療ガイド ライン』2025.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf
2)
Azegami T, et al. Nephrol Dial Transplant, 2025; 40: 164–172.
3)
Kobayashi A, et al. Clin Exp Nephrol 2025; 29: 276-282.
4)
AHA「Cardiovascular-Kidney-Metabolic Health: A Presidential Advisory From the American Heart Association」
https://doi.org/10.1161/CIR.0000000000001184
5)
KDIGO「KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease」
https://kdigo.org/wp-content/uploads/2024/03/KDIGO-2024-CKD-Guideline.pdf
